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2021年9月30日に開催されたオンラインイベント、『Support DX Summit 2021』。
本アワードでは、デジタルチャネルを活用した革新的なサポート体験を提供する9社および団体が表彰されました。
そして、最終選考で大賞「The Summit 2021」に輝いたのは、LINEアカウントサービスでユーザーに新たな顧客体験を提供するヤマト運輸株式会社です。
日本に生きていて、クロネコヤマトの商品・サービスを使ったことがない人はいないのでは?と思えるほど、生活に浸透しているヤマト運輸。
LINEアカウントサービス展開の背景や、社内で推奨されている働き方など、とても気になります。
今回、同社のサービスを担当する三谷良美氏と笹森裕子氏に、サービスへのこだわりや社内でのキャリア形成についてお話をうかがいました!
また、今回は『Support DX Summit 2021』を主催する一般社団法人サポートデジタル協会代表理事、向川 啓太氏にもご参加いただき、DX視点のサービスやキャリア形成についてもお話しいただきました。
三谷 良美氏(画像右)
ヤマト運輸株式会社 プラットフォーム機能本部 事業推進部。
個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」のサービス企画開発、マーケティング施策、パーソナライズコンテンツ、顧客体験の醸成などを、チーム全体のリーダーとして担当する。
笹森 裕子氏(画像左)
ヤマト運輸株式会社 プラットフォーム機能本部 事業推進部。
クロネコメンバーズのチームとして、LINEアカウントを始めとしたデジタルチャネルサービスのUIなどを担当する。
向川 啓太氏
一般社団法人サポートデジタル協会代表理事。
これまで主にカスタマーサービス領域での人工知能や音声認識を活用した新規事業開発を手掛ける。
お客様のサービス体験を突き詰めて、デジタルへ落とし込む
私自身、ヤマト運輸にはいつもお世話になっています。
特にLINEで再配達の手続きやお届け時間の指定ができるようになってから、ものすごく便利になったという印象です。
三谷: ありがとうございます。LINEアカウントサービスは利便性もそうですが、皆様に愛着を持って使っていただくことを大事にしています。
当社は、地域に愛されるサービスを目指しています。
リアルのシーンでは、配達を行うドライバーの名前を覚えてもらうなど、親しみを持ってもらうことが多いです。その体験を、デジタルで薄まることがないようにしたいと思っています。
たしかに。いつも荷物を届けてくれるお兄さん・お姉さんって、気づいたらちょっとした顔見知りのように親近感を覚えます。
笹森: ご不在連絡票も、紙の端がギザギザで猫の耳のような形状をしています。これは目が不自由な方も、「ヤマト運輸が荷物を届けに来たんだ」と気づいてもらえるように設計されています。
こうしたリアルの文脈で受け継がれてきたぬくもりを、デジタルでも継承していきたいと考えています。実際に、LINEでは他チャネルよりも会話しているようにコミュニケーションできることを意識しています。
サービスへの思いや理念が、リアルと同じくらいデジタルでも生かされているんですね。
実際にLINEアカウントサービスの展開で、苦労したことはありますか?
三谷:
私たちは、社会的インフラを担う企業として、ユーザー層が若年層から高齢者まで、幅広いという特徴があります。
そのため、ご案内する際に使う言葉遣いには、注意しています。
笹森:
「親しみやすさ」は、紙一重の領域だと思います。
「こうしたポップな感じなら、楽しんでいただけるだろう」と思っても、フランク過ぎると感じられてしまうこともあります。
三谷:
不快に感じる、ドライだと思うなど、感想は人によってさまざまです。
そのため、デジタルでは、一定のルールに沿うことになります。
どのような誘導や表現であれば、お客様に違和感なく通じるか。これは今でも試行錯誤を続けているところです。
向川:
お二人の話を聞いて、改めてすごいなと思わされたことがあります。
近年、DXというキーワードが注目されていますが、「技術」を使うことが目的化している企業が多い印象を受けています。
しかしながら、ヤマト運輸の取り組みを聞いていると、「お客様がどんな体験をしているか」に立ち戻って、常にお客様視点でサービスを考えている。
当たり前のように聞こえますが、それを徹底されている企業が、ヤマト運輸や『Support DX Summit 2021』で登壇されたノミネート企業のみなさんには多い印象を抱きました。
ユーザー視点を徹底的に追求する
LINEアカウントサービスの展開で、「これはうまくいった!」「これは失敗だったな」といった体験談を、ぜひうかがいたいです。
三谷:
失敗は挙げたらキリがありません。
さきほどのポップさの例でお話すると、絵文字を使ってメッセージ配信したとき、SNSでの一部でネガティブな反応が見られたことがありました。
私と笹森は同世代なので、自分と同世代の方だけに向けた文章にならないように、常に意識しています。
逆に良かったことは、お客様が「LINEでのトーク体験」ですべての手続きが完了することを求めていることに気づけたことです。
笹森: 私も、失敗談がいろいろあります。過去に当社のオリジナルLINEスタンプを配布したとき、そのイラストの表現などが意図しない形で伝わってしまったことがありました。
その経験から、自分が感じる印象以外にも、さまざまな捉え方があることに気づけました。
よかったことも、スタンプつながりです。
ヤマト運輸のアカウントにスタンプを使ってもらうと、「~にゃ♪」と猫語で返事をするようにしています。
そのコミュニケーションの様子を、キャプションしてSNSで「かわいい!」とシェアしてくださる方がいました。
大きな反響があり、とても嬉しかったです。
ヤマト運輸は、LINEやSNS文脈でのコミュニケーションを積極的に行っていますよね。
幅広いユーザーがいるサービスであるからこそ、コミュニケーションがきっかけで大炎上しないよう、意識していることはあるんですか?
三谷:
特別なことではありませんが、そこでも「お客様視点」は大切にしています。
メッセージの伝え方や、言葉の言い回しなどもそうですが、ご不在時のコミュニケーションも意識しています。
不在かあ。荷物を受け取れず再配達してもらうとき、どうしても罪悪感を覚えてしまいます…。
三谷:
そう感じられるお客様は少なくありません。しかし、私たちはお客様のせいだとは考えていません。
お客様のご都合に合わせてお届けできなかった、荷物が届く前のお届け予定を通知するサービスを提供できていなかったなど、当社に改善すべき点があると考えています。
LINEをはじめとしたサービスを使っていただきたいのも、不在を失くすことが目的ではありません。
お荷物を「送る」、「受け取る」という体験を、よりよくしていくことにフォーカスし続けています。
笹森:
私たちも、ヤマト運輸の社員であると同時にいちユーザーです。
そのため、「この文言やメッセージをみたらどう感じるか」というのを、ユーザー視点で俯瞰できます。
その視点も生かしながら、他部署とも相談して発信する表現や内容を決めています。
二人とデジタルとの出会い
あくまでユーザーの目線に立って、サービスを決めているんですね。
そもそも、お二人はどんな理由でヤマト運輸に入社したんですか?
三谷:
私はインフラ企業に興味がありました。
当社に決めた理由は、「お客様第一」を理念に掲げていて、以前からチャレンジングな活動に取り組んでいたからです。
入社してからもその印象は変わらず、新しい施策をボトムアップで提案できます。
笹森:
私は「人の心が豊かになる瞬間に貢献したい」という軸で就職活動をしていました。
自分自身が「心が豊かになる瞬間」を考えた結果、「今までつながっていなかったものとつながった時」だと気づきました。
当社の事業は、それまでお客様の手元になかったものを届けています。
私が考えた「心が豊かになる瞬間」に、貢献できると思いました。
なるほど。実際に入社して、社内での働きやすさやキャリア形成はどんな印象を持たれていますか?
三谷:
リモートワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方ができる会社だと思います。
子育てしながら、働いている女性も多いです。
笹森:
社員数が多い分、働き方も多種多様です。育児をされている方の時短勤務や産休後の働き方など、参考になります。
育児休暇を取っている男性も身近にいます。
三谷:
ライフステージの変化によって、働き方や生き方への考え方は変化します。
それに対して、いくつもの選択肢があるのはありがたいです。
笹森:
仕事をしっかり頑張ると同時に、自生活との両立も大事です。
「アクセルだけでなく、ブレーキもある」という言葉が、とても印象に残っています。
ワークライフバランスが取れる制度があるのは、心強いです。
ものを「送る」、「受け取る」の先にある暮らしもよりよくしたい
すてきなお話ですね。現在、三谷さんと笹森さんはDXに関連する業務に取り組んでいらっしゃいますが、それ以前もデジタルチャネルへの知識はあったんですか?
三谷: 入社前はまったくありませんでした。研修で少しだけ、UI/UXといったIT関連について勉強したと思います。
笹森: 私も三谷と同じで、DXやデジタルの知識はありませんでした。
三谷:
私は、1年目はセンターで勤務し、そこで宅急便の仕組みや現場のことを学びました。
その後、営業企画を担当し、お客様への物流ソリューションや倉庫業務の改善などを行っていました。
この頃から、DXでお客様の業務改善に貢献することを考え始めました。
その後、1年間外部のIT企業に出向し、デジタルマーケティングを勉強しました。
当社に戻り、クロネコメンバーズに関わりはじめてからは、本格的に実務でもデータ活用やデジタルチャネルに携わるようになりました。
笹森:
私の場合は、2年目に営業職を務めた後、グループ会社に出向しました。
5年目からは現在の部署になり、先輩から教わりながら業務を通じて学びました。
そうなんですね。デジタルやDXとキャリア形成というのは、今の時代切っても切り離せない気がします。
向川さんは、これからのキャリア形成とデジタル化をどう考えますか?
向川:
バズワードになっているDXというキーワードは一過性のものかもしれません。
しかし、これから先どの企業もデジタル化は避けて通れない道です。
これからのビジネスは、「人×人」の顧客体験や接点を残しつつ、デジタル接点の比重が増えていくでしょう。
若い世代ほど、その傾向が強くなると思います。
デジタルネイティブの方々は、デジタルから経験を積むことが必須になるかもしれませんね。
こうした経験を積まれていない方は、ある種の危機感を抱いた方がいいかもしれません。
これからますます、デジタル化というのが一般的となりそうですね。
三谷さんと笹森さんは、これからヤマト運輸でどんなサービス開拓にチャレンジしていきたいですか?
三谷:
クロネコメンバーズは会員数が5,000万人を突破し、ECの普及によりさらにお客様の生活に浸透しています。
そして、私たちはお客様がものを送る瞬間、受け取る瞬間だけではなく、その延長線上の暮らしも豊かにできると思っています。
延長線上。具体的にはどんなことでしょう?
三谷:
ものを買ったり送ったりするのは、生活になんらかのきっかけがあるから生まれる行為です。
例えば、「なにか運動がしたい」と思ってネットを検索して、悩んだ末にゴルフ用品を買ったとします。
私たちが知っているのは、「お客様がECサイトでゴルフ用品を買った」という情報だけです。
しかし、お客様はこの先ゴルフを練習して、ゴルフ場に行くまでの間にさまざまな感情を想起し、それに基づいた行動をします。
ゴルフウェアを探したり、練習場所を探したり、ゴルフ場の予約を入れたりするなど、そうしたカスタマージャーニーも、私たちがシームレスに提供できる可能性があると感じています。
それによって、ゴルフから始まったすべての体験をよりよいものにしていきたいと思っています。
「クロネコメンバーズになると、こんな幸せに暮らせるんだ」という顧客体験を実現できるところまで、チャレンジしていきたいです。
すごく面白い挑戦ですね。いち会員として、今よりもっと便利になったクロネコメンバーズを楽しみに待ちたいと思います。
笹森さんはいかがですか。
笹森: 私が取り組んでいるのは、アナログでもデジタルでもストレスフリーな接点で、よりよい顧客体験をつくることです。また、「セールスドライバー(SD)がもっと働きやすくなる仕組みづくり」にも挑戦したいと思っています。
お客様の一番近い距離にいるのはSDです。
SDの働きやすさは、お客様のよりよい体験につながると思っています。
お客様が荷物を受け取りたい時間や場所など、お客様のご要望に合わせた方法を提供し、「受け取る」をより便利にしていきたいと考えています。
そのサービスが実現したら、ユーザーも負担なくものを受け取れるし、ドライバーさんの配達の負担もかなり軽減されますね。
最後に、向川さんにここまでの話で感じたことをお話いただければと思います。
向川: 私はこれまで、さまざまな企業向けにチャットボット開発を手がけてきましたが、必ずと言っていいほど、その担当者のパーソナリティがチャットボットの会話内容に色濃く反映されます。
おふたりの会話は、顧客体験を第一にするという、ヤマト運輸の経営理念やポリシーを体現するような考えが随所で感じられました。
それがそのまま、提供するサービスにも反映されている気がしています。
今後は、ヤマト運輸との接点がLINEだけ、という人も増えてくると思います。
顧客接点がデジタルに移行するからこそ、ブランドイメージがより重要になります。
そんな大事な接点を、三谷さんと笹森さんが担当されている。
だからこそ、ヤマト運輸のサービスはうまくいっているのだと、強く感じさせられるお話でした。
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この記事を書いた人
すべらないキャリア編集部
「ヒトとITのチカラで働く全ての人を幸せにする」というミッションのもと、前向きに働く、一歩先を目指す、ビジネスパーソンの皆さんに役立つ情報を発信します。